千菊 基司(鳴門教育大学大学院准教授)【平成27年度入学】
広島大学教育学部教科教育学科(英語教育学専修)を平成2年に卒業し,他大学で修士号を取りました。県立学校での勤務を経て,広島大学附属福山中・高等学校で勤務し,何度か卒業生を出すと,自分の指導の成否にある程度見通しが持てるようになっていました。一方で,指導方法について「なぜそうなのか」を明快に説明できないこともあり,附属学校で教員養成に関わる立場にある自分がこれで良いのかと悩んでもいました。その間,広島大学の先生方には公開研究会の研究授業や共同研究などで指導助言をしていただいていたのですが,大学院で学ぶことについてもお声がけいただき,特に興味のあったスピーキングの指導法を研究しようと考えました。フルタイムで勤務をしながら,長期履修制度を活用しての5年間の学生生活が,平成27年に始まりました。
・学生生活のはじまり
そろそろ50歳,という時にライフスタイルを変え,新しいことを始めるのがそもそも大変でした。大学院入学を職場で認めていただいただけでもありがたく,仕事の軽減を望めるわけはなく,部活の顧問(バスケのコーチ)もそれまで通りしました。長男が大学生,次男が高校生になっていたので,子育ての関わり方が変わり,学業に振り向ける時間を捻出できそうだというのが,入学後の生活を楽観的に見通せた唯一の根拠でした。
博士論文は,全国学会レベルの学術誌に採用された論文をベースとするのですが,入学前に十分準備はできていませんでした。1年目は毎週のゼミで発表機会をいただけて,ありがたいながらも,ものすごいプレッシャーでした。本当に多くの先生方の理解と協力があってなんとかなっていた感じでした。生徒たちには,自分が大学院生でもあることについて,卒業後まで明かせませんでした。仕事で手を抜いていると思われたくなかったのですが,自分の不安を隠すために,変な意地を張っていたのだとも思います。
・研究生活
別のゼミでしたが,教育実習では私が指導教諭だった「先輩」がいました。そのご縁でいろいろと話しかけやすく,図書検索のことや,書類の手続きなどはすべて教えてもらいました。所属していたゼミには,スピーキングの指導を専門にやっていた院生はいなかったのですが,資料を真剣に読んで,コメントをくださいました。先生方はみな,様々な角度から示唆に富んだ助言をくだいました。それまで会ったことも無かった他大学の先生にメールを出し,発話の分析方法を詳しく教えていただきました。学問を進めるというのは,こういうことなのかと実感しました。2年目以降には生活のリズムもできてきたこともあって,なんとか学会発表・論文執筆へと進めていけました。
・働きながら学位取得を目指すみなさんへ
美味しい野菜を作ることで有名な農家の人がテレビのインタビューで発言されておられました。新しい栽培方法を取り入れて,もし失敗したらその年の成果はゼロになると。教員の仕事も同じ面があり,新しい指導法を取り入れるには,相当の根拠がなければ踏み切れないものであると思います。だから私は,自分の指導の過程や結果をきちんと検証して世に出すことで,英語の授業を変えたいと思う仲間の助けになりたいと,強く思うようになりました。もし同じような気持ちがあれば,仕事をしながらでも,大学院進学を考えてみてはいかがでしょうか。そんなあなたの思いを,生徒たちもきっとわかってくれますよ。(2023年6月執筆)