menu
先輩たちの声
8年間の博士課程

中川 篤(平成28年入学)

平成28年入学

私は平成21年に広島大学教育学部に入学し,1年間のハワイ大学への留学を経て,平成26年に広島大学教育学研究科博士課程(前期)へと進学,平成28年3月に同課程を修了しました。そこまではそれなりに順調だったのですが,そのまま進学した博士課程(後期)では実に8年という長い時間をかけて苦しみもがき,令和5年も12月末になってようやく博士号を取得しました。

「これから受験を考える人を対象に,『先輩の声』というセクションを教英HPに設けています。中川君にもメッセージを書いてもらえないでしょうか」という依頼をいただいた際,こんな私の経験が一体何の参考になるのだろうと思いました。しかし,前後期合わせて10年も博士課程にいたのですから,私より博士課程の学生生活に詳しい人間もそうはいないでしょう。それが自慢か自虐かはさておき,以下では私の博士課程(後期)の経験についてお話ししようと思います。

といっても博士課程(後期)の学生生活は非常にシンプルで,1週間に受ける授業は基本的に2つだけです。1週間に一度,合同ゼミのような特研という授業があり,そこで博士課程(前期)も含めた他の学生の研究発表を聞いてコメントしたり,自身が発表してコメントをいただいたりします。他分野の研究を聞けたり,他分野の研究者(の卵)からコメントをもらったり,複数の教授から定期的に指導を受けたりすることができるというのは,非常にありがたい環境です。教授からの指導はもちろんですが,他分野の研究者の卵からのコメントも得難いもので,自分野の研究ばかりに触れていると所与のものとなり気づけないことに気づくきっかけになったりします。

もう一つの授業である講究(※人間社会科学研究科となってからは「講究」は「特研」と統合される形となっています)はいわゆるゼミで,自身の主査となる教授やゼミ生に対して研究の進捗を報告したり,指導をいただいたりします。これら以外の時間は全て自身の研究や生活(費を稼ぐ活動)に割り振ることができます。博士課程(後期)に関しては,2年で終えられる方もいますが,1年延長して3年で終えられる方も多いようです。

ではなぜ私が博士課程(後期)を終えるのに8年もかかったかと問われれば,詩的にいえば運命の悪戯,散文的には事の成り行きと答えるほかありません。博士課程(前期)を終え,4月からの後期進学へと備えていた3月初旬,ご指導いただいていた先生からの推薦で,4月から1年間だけ広島大学附属中・高等学校へ勤務させていただくことになりました。教師の熟達や適応に興味を持っていた私は,自身が教師としていかに熟達し,適応していくのかを観察・記録することができれば,自身の研究に資すると考えたのです。しかも生活費が稼げて,履歴書にも書ける。自身の研究をデータに論文も書けるかもしれない。笑えるほどに楽観的でした。長くなるので端折りますが,この中・高等学校でのたった1年間の勤務経験が,私のその後のキャリアを大きく変えました。日常の大半を中・高等学校の教師として,曲がりなりにも目の前の生徒に向き合っているうちに,それまで自分がやっていた研究内容に興味を持てなくなってしまっていたのです。

このような経緯で博士課程(後期)2年目途中から研究テーマをガラリと変え,新たな研究に着手することにしました。こんなわがままは通していただけたのは,ひとえにご指導いただいていた先生方の厚いご支援のおかげです。もし私が指導教員の立場なら,博士論文を提出するべき2年目に,学部から取り組んできた研究テーマを変更しイチから再出発などという暴挙を許せた自信がありません。きっと許さなかったでしょう。それが許されたどころか,応援されたところに,教英の懐の深さを感じました。(2024年3月執筆)